面会か?お金か?
- 洪均 梁
- 8月12日
- 読了時間: 8分

家を出ました。離婚調停を申し立てました。婚姻費用、平たく言えば生活費を支払えという調停も申し立てました。
すると、夫は子どもと会わせろという調停を申し立てました。面会交流調停ってやつですね。
こんなふうになると、裁判所は離婚よりも婚姻費用や面会交流の問題を先に処理しようとします。
婚姻費用は母と子との生活のために必要性が高いので先にというわけですね。面会交流については、父と子を長く会わせなでいると、子が健やかに成長できなくなるという考え方のようです。子ども達の前でさんざん母親に暴力を振るう父親もいます。そんな父親と面会させないと子ども達が健やかに成長できないなんて考え方もあるんですね・・・もっとも、調停が始まってすぐには裁判所もそんな事情はわかりません。
婚姻費用が父と母の収入によって算定表で決まるというのは、前に書きました。これは基本。
では子どもが私立学校に行っている場合も算定表での金額に限られるのでしょうか。これも前に書きましたっけ?
両親が共に私立学校に通わせるつもりだった場合、私立学校での費用についても父親も分担すべきことになります。
ですから、母親としては父親も私立学校で勉強させるつもりだったと主張します。ところが、父親はたいてい「オレにはそんなつもりはなかった。あいつが勝手に私立学校に入れたんだ」とか言い始めます。
これが父親と母親だけのことだったら、双方の主張を戦わせて、証拠を提出すればよいということになります。
ただ、父親が面会を求めている場合には、その代理人たる弁護士があらかじめ注意しておいた方がいいのではないかと思うこともあります。
子どもの身になりましょう。私立学校を目指していたお嬢ちゃん。お受験です。人生で初めての試練、遊ぶのもがまんして一生懸命勉強しています。でも、両親はめっちゃ仲が悪い。はらはらしながら勉強も上の空になりそうなところを一生懸命がんばっていました。お父さんもお母さんとケンカしていないときには、「勉強がんばれよ。第一志望に受かるんだぞ。」とか言って励ましてくれる。
でも、とうとう両親は別居。自分は母と共に暮らすように。新しい環境にすぐには慣れないし、家族がどうなるのか不安もある。でも、頑張ります。
晴れて、合格しました。誇らしい思い。人生で初めて高い壁を乗り越えたという感じ。同じ小学校に通い、公立中学に入学した同級生にちょっぴり優越感。目指した学校に入り、だんだん友達もできて、新しい環境になじんできました。大学にも行きたいから、がんばって勉強しよう、硬式テニス部でもがんばろうと新たな出発
そんな中でお母さんは家庭裁判所とかいうところに行って、お父さんと争っているとのこと。お母さんはあまり詳しいことは話そうとしないし、なんとなく聞かない方がいいような雰囲気。
そんな日々が続く中で、裁判所から疲れ切った顔をして帰ってきたお母さん。眉根にしわを寄せて考え込んでいる。あんまり心配だから、「どうしたの?」と聞いてみる。お母さん、無言。あまり聞かないほうがいいような気もするけど、お母さんがあんまり落ち込んでいるようなので、もう1度聞いてみる。やっぱりお母さん無言。でも、しばらくして、ぽつりと「お父さん、あなたが私立学校に進学することに反対してたと言ってる。お父さんは私立学校の学費は払わないって・・・」
一瞬、なにを言われたのわかりません。お父さんは「第一志望に受かるんだぞ。」と言ってくれていたのです。それに、お父さんが学費を払ってくれなければ、自分は高校をやめることになるのかしら。勉強にがんばった日々はなんのためだったの?ひどいショックを受けます。
それでいて、オレと面会しろってなに?
当然の感想でしょう。お嬢ちゃんはひどく傷ついています。そもそも、一般に父親は娘に甘いもの。甘やかすだけ甘やかして、しかるのは母親の役割だと思っている父親は珍しくありません。母親から見れば、いいとこ取りの局地。
でも、お嬢ちゃんは父親は自分を愛しているのだと感じていました。その父親が私立学校をやめることになっても仕方がないと思ってるなんて・・・父親への信頼は崩れ去ってしまいます。
こんなときに父親と面会しろって言われて、すんなり会う気にならなくたって、仕方がないでしょう。
一昔前のこと。東京家庭裁判所では仮に子どもが会うのを嫌がっても、無理にでも会わせるべしという方針で裁判をしていました。目の前で母親をさんざん殴っていた父親に無理にでも会わせることが子どもの健やかな成長のためただということでした。調停委員から、アメリカの論文にそうすることが子どものためなんだと書いてあるという説明を受けたことがあります。
その後、裁判所がその論文を誤読していたということが明らかになっています。離婚した両親とはいえ、感情的な対立が激しくない両親であれば、面会も平穏に進むでしょうし、子どものためにもなるでしょう。その論文はそんな両親と子どもをサンプルとして論じたものであって、感情的にひどく対立している両親、高葛藤とか言いますが、両親がそんな関係な場合にもそう言えるとは限らないとの疑問が優勢になっています。
そのため、現在の裁判所では子どもの意向を尊重するようになっているようです。
さて、さきほどのお嬢ちゃん。お父さんがお母さんをいじめている所は見ています。その点ではお父さんは困ったちゃんです。とはいえ、父親は父親。小さいときにずいぶん可愛がってもらいました。そのため、お父さんを嫌いになった訳じゃない。今でも少しは愛情も・・・その対立する気持ちの中で、お嬢ちゃんの気持ちは揺れ動き、自分でもその気持ちをどうしていいかわからない状態。別居した時点ではこんなふうな気持ちでいるんじゃないかと思いまする
そこにとどめとして、私立学校に進学することを賛成していないとの発言。お嬢ちゃんは混乱し、困惑し、もうどうしてよいかわからないといった気持ちになっています。自分の気持ちを持て余しています。結果、お父さんのことはあまり考えたくない、会うなんて・・・という感じ。
調停でお母さんは、お嬢ちゃんの気持ちを調停委員に伝えます。「娘は会いたがっていません。私も会わせることが娘のためになるとは思えません。」父親は娘が自分を愛していると信じ切っているので、「それは母親が勝手に言ってるだけだ。娘のためだ。会わせろ。」調停はデッド・ロック
面会交流の調停がすんなり進まないと、家庭裁判調査官という人が子どもと面接します。裁判所の職員ですが法律の専門家というよりも、どちらかと言えば、心理学なんかの専門家です。
調査官は、子どもと面接して、うまく本音を引き出してくれます。むしろ、母親にも言えない本音のところを引っ張り出してくれて、最初は裁判所の人と面接することを嫌がっていても、面接の後では「すっきりした。」と言うお子さんもいます。母親の気持ちを考えると、母親には言えないことも、調査官が共感を示して聞いてくれたりします。
この面接で子どもが、「それでもお父さんと会いたい。」と言えば、調査官はそのような報告書を書いて、裁判官に提出するでしょう。
しかし、そうでない場合、特に子どもが会うことを避けようとしている場合、調査官はそのような報告書を提出します。裁判官がそれを見ての結論は一概には言えませんが、私の見た例では3年間は母親が写真を3ヶ月に1度送りなさい。3年経ったら、また話し合いなさいというような結論が出た例もありました。
さて、お父さんが「私立高校に進学させることは自分も賛成していました。学費はそれなりに支払うつもりです。」とでも言えば、どうだったでしょうか。
もちろん両親の離婚に直面しているんだから、お嬢ちゃんの複雑な気持ちがなくなるわけじゃありません。でも、少なくともお父さんが裁判所でウソをついてお金をケチろうとしたという印象は持たなかったでしょう。それで父親への信頼がますます薄らぐということもなかったでしょう。
裁判所で婚姻費用と面会交流が問題になった場合、お母さんの率直な気持ちとして「生活費も払わないくせに面会させろなんて!」とお考えになることが多いようです。個人的にはそのお気持ちはよくわかります。でも、調停委員からは「それは別の問題です。」と言われてしまいます。確かに裁判所ではそれは別の問題として扱います。
とはいえ、事はお嬢ちゃんが面会する気になるか否かという問題です。支払う婚姻費用の金額を少しでも低くしようとして「私立高校に行かせることに賛成していない。」などいう主張をするという作戦は、面会交流の実現をむずかしくする危険があります。
私の経験からは、子どもは自分を愛しているはずだと思い込んでいるお父さんがたくさんいます。でも、思春期にさしかかる女の子にとってはお父さんは「キモい物体」にしか見えないこともあります。この表現は私が携わった離婚事件でお嬢ちゃんが現実に言っていた言葉です。その「キモい物体」が自分の高校生活を破壊しようとしているとすれば、どんな気持ちになるか想像できますよね。
いずれにせよ、お金は大事ですが、お子さんの気持ちはもっと大事でしょう。

木村法律事務所 03-5524-1552
東京都中央区銀座1-5-7 アネックス2福神ビル5階

Comments