調停で面会交流の取り決めができました。1ヶ月に1回、子どもに会える・・・と思っていたのに、会えない・・・
日程調整の連絡を入れると、「あの子、忙しいのよ。」とか言われる。幼稚園児がなんでそんなに忙しいのかさっぱりわからない。そのうちに「会いたくないって。」とか言われるようになった。調停が終わってから半年になるのに、まだ1回も会えていない。確かに調停条項の中には「子の福祉に配慮して」とか書いてあった。調停委員が「お子さんの生活やお子さんの気持ちを尊重するということですよ。」と言ってた。でも、これじゃ調停やった甲斐がない。そもそも、安月給の中から、毎月養育費を支払っている。調停委員は「これは裁判所の基準による金額です。適正な金額ですよ。」と言ってた。裁判官もそう言っていた。高いと思ったが、子どもに会えるのなら、それを生きる張り合いにして、がんばって払うことにした。でも、支払いも楽じゃない。ビールが好きなのに我慢してホッピーばっかり飲んでる。
あ・・・ホッピーってご存知じゃない女性多いですよね。要するにビールの廉価版です。労働者のビールとか言われていたこともあります。私、好きですけど。
それはさておき、そうやって努力しながら養育費を支払ってるのに、子どもにも会えない。じゃあ、養育費の支払いをストップするぞ!って言ってやった。
さて、この主張は正しいでしょうか。
お母さんの立場に立ちましょうか。モラハラがきつくて、職場でのストレスを自分にぶつけられる日々に我慢ができなくて家を出ました。調停で養育費の支払いを求めました。父親は子どもに会わせろという調停を申し立ててきました。
溜まったストレスを私にはぶつけてきたけど、子どもにはそんなことはしなかった。むしろ、子煩悩で、子どものことは猫可愛がりしていた。子どもも父親になついていました。
だから、会わせてやんないとは思っていませんでした。それで月1回という取り決めに応じました。
ところが、その後、子どもの態度が変わってきました。よくわからないけど、会いたくないと言い出しました。「会ってきたら。」と何度も言ったんだけど、イヤだと言ってる。イヤなものを無理にというわけにもいかない。だからと言って、面会を断るのに「あんたに会いたくないって。」と言うのも親子の仲を裂くようで、ちょっと言えない。それで、「忙しい。」とか言ってお茶を濁していました。いろいろ理由をつけて、次の日曜は運動会だとか、翌月の日曜には実家の両親がこっちに来るとか言っていたけど。幼稚園児がそんなに忙しいわけもなく、ネタ切れの状態。仕方なく「会いたくないって。」と禁断の一言。案の定、「そんなわけねえじゃねえか。」と逆ギレ。「ああ、この逆ギレがうっとおしくて、なにも言えなくなってたんだ。思い出したくなかった。」とか頭の片隅で思っていると、「じゃあ、養育費は払わねえからな。」と言って、電話を切られた。
幼稚園が見つかったので、フルタイムで働いてるけど、養育費がストップされると、めっちゃきびしい。面会させないから養育費の支払いをストップするという理屈はわからないじゃないけど、それは正しいのかしら?
結論から言うと、仮に裁判所に行って父親がこんな主張をしたとしても、裁判所が父親の味方についてくれるのは期待しないほうがいいでしょう。
法律の世界では面会の問題と養育費の支払いの問題はまったく別の問題です。面会も養育費も子どもが健全に育つための手段です。母親に十分な収入があって、養育費なんかなくったって困らないというケースであれば別でしょうが、養育費の支払いがなければ暮らしてゆけないシングルマザーはたくさんいます。養育費の支払いを止められると、子も食べてゆけません。お肉なんか食べられなくなって、おかずはお漬物しかないなんてことになると、子どもの健康にとってよくないことは誰にもわかることです。最近は卵も高いので、養育費を止められると、動物性タンパクがとれないなんてことにもなりかねません。
こんなことになることを法律は許しません。面会交流の問題とは関係なく、裁判所は養育費を支払いなさいと命じます。
まず裁判所に履行勧告をお願いします。裁判所に電話するだけで勧告してくれることもあります。父親に養育費を支払いなさいと連絡してくれます。ここで、養育費と面会の問題は別だと説明してくれれば、納得できないまでも支払うようになることが期待できます。
それでも支払わない場合、強制執行ができます。伝家の宝刀、給料の差押えです。
とはいえ、面会させてあげることも検討しましょう。
ただ、両親が離婚した場合、子どもの心理はとてもデリケートなものです。この父親は母親にさんざんモラハラをしていました。帰宅すると、仕事のストレスを妻にぶつけていたのです。それも長時間にわたって。
ストレスフルな現代社会、会社で人間関係に気をつかい、イヤな上司の理不尽な物言いを我慢し、わがままな客のわけのわからない要求をいなしながら、仕事をしていると、そんなふうに当たり散らさないと正常な状態を保っていられない人もいます。ストレスをぶつけられる方にしたらたまらないことですが、ぶつける方もギリギリで生きているってケースはそんなには珍しくありません。
このお父さん、それなりに自制していたようで、子どもの前ではモラハラしてなかったようです。ただ、子どもは親が考えているより利口です。ふと起きると、リビングから両親が押し殺した声でなにかしゃべっているのが聞こえる。ときおり、母親の泣き声らしきものも聞こえる。泣き声はなくても、次の後、母親の目が真っ赤になってて、機嫌が悪い。無理に笑顔を向けてくれるが、その笑顔もひきつっている。
こんなことが繰り返されると、子どもも大事なお母さんがたいへんな目になっていることがわかってしまいます。母親への虐待は子どもへの虐待でもあるというのは今では常識と言ってもいいのではないでしょうか。
それでも子煩悩なお父さん。同居している間は子どもとの関係はそれなりに良好でした。しかし、別居して父親と距離を置くと、大事なおかあさんがいじめられていたことがクローズアップされてきます。子どもとしてはアンビバレンツな思いにさいなまれる場合もあります。「お父さんに会ってみたら。」と聞くだけで、子どもの顔が暗くなってしまいます。
こんなお子さんを父親と無理に会わせることは、その健全な成長を妨げるといういうべきでしょう。
ところが、もう一緒に暮らしてはいないお父さんには、こんな変化もわかりません。
確かに調停では月1回程度会わせることになりました。しかし、それは「子の福祉に配慮して」実現されるべきものです。上記のような場合には、しばらく時間をおくことも必要ではないでしょうか。子どもに「お父さんに会ってみたら。」と尋ねることも控え、子どもが会いたいというのを待つというのがベストである場合もありえます。
このような場合、面会交流はなされず、養育費の支払いだけは続けなければならないということになってしまいます。それなりに子煩悩なお父さん、割り切れない思いがするでしょうし、子どもに会えないことはつらいと思います。でも、仮にこのような方から相談を受けたとしても、ごり押しに押すことは逆効果であることをよく説明して、しばらく待ちましょうというのがベストなアドバイスであることもあるのです。
もうしばらく待ちませんか。
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