モラハラは離婚原因になるでしょうか?
「おまえ、ばっかだな~!」「何度言やぁわかるんだよ。脳みそあんのか。」なんて言葉を毎日のように言われてた奥様を知ってます。新婚の頃にはあまり気にもならなかったようですが、少し冷めかけると不快に感じ始め、そのうちに、言われる度に思いっきり不愉快になるようになりました。眉にしわをよせてにらみつけたりしましたが、いっこうにこちらの気持ちに気づきません。それどころか、言葉もエスカレートしてきて、「おまえ、小学校出てるのか。」とかいう言葉も出るようになりました。しかも、毎日です。
立派な「モラハラ」でしょうね。
モラハラって言葉はいつ頃からみんなが知る言葉になったのでしょうか。
モラル・ハラスメントを略したものだということですが、私が大学を卒業した頃にはありませんでした。何十年前かは聞かないでください。
モラハラは離婚原因になるでしょうか。
離婚原因というのは、それが認められれば訴訟で離婚が認められたり、モラハラをした人への損害賠償が認められたりする事実のことです。
だとすれば、モラハラは離婚原因になるでしょうかという問いは、モラハラの被害者は離婚請求訴訟で勝って、慰謝料をもらえるでしょうかという意味です。
この問いに簡単に答えることがむずかしいケースがあります。
第1関門 - それモラハラ?
まず、お連れ合いがしたことや言ったことが「モラハラ」にあたるかが問題です。
モラハラって言葉がみんなが知っている言葉になりました。セクハラだのパワハラだのって言葉もみんな知ってます。この「ハラ」がお腹じゃなくて「ハラスメント」を省略したものだってこともみんな知ってます。「ハラスメント」ってのは嫌がらせだってことも知ってます。
嫌がらせ・・・。最初に出てきた「おまえはばっかだな~」ってのは嫌がらせでしょうか。「嫌がらせなのは明らかじゃないか、この弁護士はそんなこともわからないのか。この弁護士ばっかだな~」なんて言われると悲しくなります。
この奥様、少なくとも結婚当初は嫌がっていませんでした。旦那様が不器用で乱暴な人だったので、愛情表現だと受け取っていたふしがあります。「えへっ」とか言って、舌なんか出したりしてました。嫌じゃなかったら、嫌がらせじゃありませんよね。心が痛まないんだったら、慰謝料も請求できません。
でも、だんだん時が経つうちに、「おまえはばっかだな~」と言われる度に不快になってきました。どこかで嫌がらせになってしまったのです。
このようにモラハラであるかについては微妙な問題があります。「おまえ喜んで、舌なんか出してたじゃないか。嫌がってなかったじゃないか。」なんて反論が返ってきたりします。新婚の頃にそんなこと言われて奥様が「えへっ。」とか言って舌出してる動画なんかが残っていれば、それが証拠として出てきます。録音だの映像だの、客観的な証拠は信用性が高いと評価されます。しかも、映像は視覚にまで訴えてきます。
それじゃあ、こんな言葉を言う方からみてみましょうか。
この旦那様、深い考えもなしに、こんな言葉を言っていました。もともと口の悪いやつ・・・やつなんて言っちゃいけませんね。口が悪いお方だったので、普通に出てくる言葉だったのです。奥様がめっちゃ嫌な気持ちになっていることにも気づいていませんでした。この旦那様には自分が嫌がらせをしているという意識がなかったのです。
「そんな奴はおらんやろ。」とか思われるかもしれませんが、私は何人も見てます。
それで、裁判では、旦那様側から、そんな言葉で人は傷つかないとか、傷つくと思ってなかったなんて反論が返ってきます。「嫌がらせなんかするつもりじゃなかった。」とかいいます。とはいえ、普通の人だったら嫌がるようなこと言っていれば、モラハラと認定される可能性は高いのですが。
奥様からのモラハラかなと思わせる場合もあります。
めっちゃ字が汚い旦那様がいました。殴り書きのメモなんか3日後になれば、自分でも読めない始末。ひどいときには、翌日見ても自分で読めなかったこともあります。
「お〜い、これなんて書いてあんだっけ?」
「あんたが自分で書いたんじゃない。しかも、昨日よ、昨日。」
なんて会話もありました。メモの意味がない・・・。
奥様、ジョークのつもりで、自分がなにか字を書くことになったら「あなたみたいに字が汚くなくてよかった。」と言っていました。初めは旦那様も無理に笑っていましたが、内心かなり不快に思っていました。ところが、この奥様、家計簿をつけたり手紙を書くようなときには必ず、それを言っていました。奥様は友人からは「面白い人」と言われていましたが、こんな皮肉っぽいジョークをしつこく言ってるようじゃ吉本興業には入れません。
とうとう、旦那様、腹を立ててしまいました。やや内にこもるタイプだったので、口には出しませんでしたが、不快感を膨らませるようになってしまいました。これだけが原因ではありませんが、その夫婦は離婚してしまいました。
このケースでは別に旦那様がモラハラだと主張したわけではありません。ただ、仮に旦那様が「あ~、おまえほど字が汚くてよかった。」なんてことを毎日奥様に言っていれば、奥様からモラハラだと主張されるかもしれません。
「あなたみたいに字が汚くなくてよかった。」という言葉がモラハラかどうかについては、いろいろご意見があるかと思います。しかも、奥様は訴訟になるまで、旦那様が腹を立てていることに気づいていませんでした。人の気持ちに興味がないタイプだったようです。「腹立ててることに気づいていないんだから、モラハラじゃない。腹立てたことを言わない方が悪い。」なんて反論も返ってきそうですよね。
たとえば友達同士で話していて「こんなモラハラされたのよ。」「そりゃ立派なモラハラよ。ひどいわねぇ。」なんて会話があれば、そのお友達との間ではモラハラがあったことになります。でも、お連れ合いの言葉でイヤな気持ちになったとしても、それがそのままモラハラになるわけではありません。ちょっとした行き違いだとか、とらえ方の差だとかいう場合もあります。要は、裁判官が「そりゃひどい。モラハラに間違いない。」と思ってくれるかです。
モラハラがあったから別居したと主張して、裁判上モラハラが認められなかったら、それは単なる別居です。相手が承諾していないのに勝手に別居すれば、婚姻関係を壊したのは別居した方だとか言われてしまいます。別居が婚姻関係を壊したとすれば、別居した方は慰謝料を請求されたりなんかします。
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モラハラかどうか微妙なケースでは、裁判所に行くかどうか迷うケースもあります。
第2関門 - 証拠はありますか?
最近、証拠のことをエビデンスという人が多くなってきましたよね。どっぷり日本人している私なんかは、証拠と言うのに慣れてしまって、エビデンスとか聞くと、エビがダンスしてんのかとか思ってしまいます。すみません。おやぢギャグで。
裁判では事実を認定して、認定された事実に法律を適用します。事実認定には証拠が必要です。刑事裁判ですが、事実の認定は証拠によると刑事訴訟法197条に書いてあります。離婚事件のような家事訴訟でも同じことです。
や、なんだか法律家が書いてるような文章になってきたぞ。
さて、モラハラについては、どんな証拠があるでしょうか。
これがDVであれば、証拠が残ることがよくあります。殴られれば青あざぐらいはできますよね。写真を撮っておきます。医者に行って診察してもらい、診断書を書いてもらいます。写真も診断書も立派な証拠です。
ところが、モラハラは暴力に至らない口撃なので、そんな証拠は残りません。密室で行われることが多いので、目撃者もいません。
気の利いた人はスマホなんかで録音したりします。でも、突然始まる口撃を録音するのもむずかしいですよね。旦那様が帰ったきたのにあわせて、ボイスレコーダーのスイッチを入れた奥様もいますが、旦那様にばれないようにと物の後ろに隠しておいたら、音が小さくて聞き取れなかったっなんてケースもあります。
もちろん、あなたの証言は立派な証拠です。ただ、あなたの証言は当事者の証言なので、それがそのまま信用されるとは限りません。自分に都合のよいように嘘を言っているのではないか、嘘とは言えないにしろかなり盛ってるんじゃないかと疑われてしまうことがあります。証言を嘘とは断定できないけど、信用性が疑わしいのでそのまま信用するわけにはいかなという認定は別に珍しくありません。いくらあなたが真面目に証言しても、他に証拠がなければ、裁判官がモラハラの事実を認定してくれないこともあります。
私は真実を話してるんだから、裁判官は信用してくれるはずだとか思わないでください。他の証拠を確保しておかないと痛い目に遭ってしまいます。
それでは、どんな証拠を用意すべきでしょうか。
さぁ、この記事で1番興味深いところかも・・・
回答はこちらですと言えないところが、世知辛いところです。それを知りたければ、一度、事務所にいらっしゃってください。親切な事務員とおいしいお茶と私が待っています。
木村法律事務所 03-5524-1552
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