性格の不一致
「あの人、トイレから持ってきたトイレットペーパーの芯を食事をするテーブルの上に置くんです!信じられないでしょう。あんな人と一緒に暮らせません!」なんて相談を受けたことがあります。お気持ちはもっとも。正直言って、私もそんな人がいるなんて想像したこともありませんでした。
ただ、この旦那様、悪気があるわけではありません。「トイレットペーパーの芯におしっこかけるわけじゃなし。」とか思っているようです。とはいえ、奥様が激怒しているのにびっくりして、もう二度としないと誓ったということです。めでたし。めでたし・・・
晴れて結婚。夢にまで見た共同生活の始まり。ところが・・・
「こんな変な人だったんだ・・・」
「こんなこと考えてるなんて・・・」
「こんなこと、当たり前のことなのに、どうしてわからないのかしら・・・」
とか感じることは何度もあるでしょう。
披露宴であいさつをしたときに、そんなふうに言うと、花嫁の友人らしき女性客がいっせいにうなずいたことがありました。結婚生活って、そんなことの繰り返しって言うと、少し大げさでしょうか。
いずれにしろ、これまでまったく別の環境で育った二人が共同生活を始めると、自分にとっての常識が相手方にとっての非常識なんてことが、ごく普通にあります。そもそも遺伝子も違うわけですし。
さて、どうしましょうか。こんなときに、[結婚する前は両目を開けて相手を見よ。結婚した後は片目をつぶって相手を見よ。」なんて言葉が思い浮かぶところです。見なかったことにした方がよいことって世間にはありますよね。
でも、片目をつぶっても見えちゃったことはどうしましょうか。片目つぶっても、テーブルの上の芯は見えますよね。そういう意味じゃないって・・・?
最初の例では、旦那様がもうしないと誓ったので、事なきを得ました。旦那様ががまんすることにしたわけです。折り合ったわけですね。でも、「トイレットペーパーの芯をテーブルの上に置くのをがまんするって、どんながまんやねん。」とか思った人いるでしょう。私も思いました。
ところが、こんな男性ばかりじゃありません。なにか言われると意地になって、かえって同じことを繰り返すってタイプもいます。誰がボスか教えてやるんだとか言って、相手の嫌がることを繰り返したりするタイプもいます。トイレットペーパーがなくなると必ず、芯を持ち出して、テーブルの上に置いておくなんてことをします。
奥様ががまんして、その度に芯を捨ててしまってなにも言わないなんて人もいるでしょう。面白くないわけじゃなくて、なにか言うと、ムキになるので面倒くさくなるんで、黙っています。
一言、なにか言ったりすると、倍になってかえってくる。「神様がオレをこんなふうに作ったんだから、仕方ない。」なんて開き直る人もいたりします。どんな神様やねん・・・。それぐらいだったらともかく「お前は細かすぎる。親の育て方が悪いんだ!」なんて言葉も出たりします。大好きな親を非難されるなんて・・・猛然と反論します。ひどい口論の始まり・・・
ここまで行くと、モラハラになることもあり、単なる性格の不一致とは言えなくなります。
そこまでいかなくても、そもそも、旦那様に悪気はないけど、奥様の不快感が理解できない場合もあります。
こんなことが長年にわたって、度重なると、さすがに奥様も堪忍袋の緒が切れます。トイレットペーパーの芯だけで離婚にはならないでしょうけど、その他にも雨が降ってきても洗濯物を取り込んでくれないとか、共働きで食事の用意をしておいたのに、先に帰ってきた旦那様が子どもを連れて外食してきたとか、そんなことの繰り返しがあると、あれやこれやでさすがに愛想がつきます。それで別居します。
さて、この奥様、旦那様を訴えたら、離婚できるでしょうか。
旦那様に離婚する気がないと、ちょいとむずかしいですね。
離婚は民法が定める事由があればできます。たとえば、民法には「配偶者に不貞な行為があったとき」には離婚できると定められています。精神病になり回復の見込みがないとかの事由も定めてあります。このような事由があれば、離婚できます。
でも、そんな事由がない場合であっても、婚姻関係が破綻していれば、離婚できます。
破綻というのは、壊れてしまって、元の鞘に戻る可能性がなくなった場合だと考えてくださってかまいません。婚姻関係が壊れてしまって、しかも、その原因が一方的に相手方にあるというような場合であれば、元に戻ることはないでしょう。しかし、どっちもどっちって場合には、それだけで元に戻ることがないとは認められません。
トイレットペーパーの芯をテーブルの上に置くことを繰り返すのは、破綻の原因が一方的に相手方にあると言えるでしょうか。「当たり前じゃないの」とおっしゃる方もいるでしょうが、「それは少しどうかなぁ」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
私は少しむずかしいのではないかと思います。人によっては、「イヤだけど、自分がすぐにゴミ箱に捨ててしまえば、いいのよ。まぁ、旦那も言えば、すぐに捨ててくれるし。子どももいるしね。」なんて人も多いかと思います。
こういう場合が性格の不一致で婚姻関係が破綻した場合といえるでしょう。どっちかが悪いわけではないけど、夫婦としてはやっていけないって場合ですね。
このような場合、裁判所に行けば離婚できるかについては、そもそも婚姻関係が破綻しているかが問題になります。性格の不一致で夫婦間の関係がうまくいかなくなっても、別居していないと、まだ我慢できるはずだということで、破綻と認められる可能性はあまりありません。
別居したとしても、何年か経たないと元の鞘に戻れないとは認めてもらえません。破綻していないということになるでしょう。
このように、どっちかが一方的に悪いと言えない場合、すなわち性格の不一致を理由として離婚しようとすれば、別居して、何年か経たないと、離婚すること自体がなかなかできません。
離婚できるとして、慰謝料はどうでしょうか。これもなかなかむずかしいでしょう。
不倫で離婚する場合には、慰謝料がもらえます。夫婦の貞操義務という言葉があります。他の異性とエッチしちゃだめということです。この貞操義務に違反したという違法な行為でお連れ合いを傷つけたのですから、損賠賠償義務が発生します。慰謝料払えってことですね。
でも、トイレットペーパーの芯をテーブルに置くというのは違法行為でしょうか。長年、民法を勉強してきましたが、民法という法律に「トイレットペーパーの芯」という言葉を見つけたことはありません。当然、それをテーブルの上に置いちゃダメという定めもありません。定められていないからいいということにはならないのですが、こんな行為が違法だというのも少し無理があります。
それでは、別居すれば離婚するまでの生活費、婚姻費用はどうで不一致であるか否かは関係しません。
仮に離婚が成立したとして、子どもの養育費も同じです。
なお、一つ注意が必要です。性格の不一致を理由として別居した場合、相手方から勝手に出て行って婚姻関係を破綻させたという反論が出ることがあります。「破綻させたのはお前なんだから、離婚を求めるなんてとんでもない。こっちが慰謝料請求するぞ。」というような言い分が出てきます。
それを防ぎつつ、別居する方法をお知りになりたければ、一度、事務所にいらっしゃってください。最初の相談は無料にしていますので、その点はご心配なく。
木村法律事務所 03-5524-1552
東京都中央区銀座1-5-7 アネックス2福神ビル5階
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