帰宅すると電気は消えたまま。子供の声もしない。どこに行ってんだかと思い、リビングに入ると、テーブルの上に封筒。手紙を読むと、子供を連れて出ていったらしい。ショック。なぜだという問いが頭をかけめぐる。
実家に電話してみると、義母が出て、「帰ってきてますよ。でも、電話には出ないと言ってます。来たって会わせませんよ。無理に家の中に入ろうとしたり、外で騒ぎを起こしたりすると110番しますからね。」
翌日、知らない弁護士から電話。連れ合いの代理人ということで、「直接の連絡はしないでください。」とか言われる。そのまた翌日、弁護士からの手紙も来た。離婚の話し合いをとのこと。話し合いができなければ、調停だとのこと。連れ合いは戻ってこないようだ。
一人きりの日を過ごす内に、思いがつのるのが子どものこと。会いたい。3歳の可愛い盛りだったのに。
あっちが弁護士を立てたんだから、こっちも弁護士だ!親子なんだからすぐ会えるはず。弁護士に任せたら、すぐだ。
ところが・・・
弁護士が言うには、まず話し合いをしなきゃいけないとのこと。時間だの場所だのを打ち合わせてという。しかも、まずは連れ合いが会わせてもよいと言うかが重要ということ。「会わせないと言い出したら、どうするんですか。」「調停を申し立てるしかなくなります。仮処分を申し立てるという方法もあるが、迅速に進むことは望み薄です。」
自分の子供なのになぜだ・・・
別居しても簡単に子どもと会えることはあります。先方が嫌がらなくて、連れ去られるという心配もしていない場合、何月何日の何時にどこで落ち合ってという話し合いが簡単にできる場合です。
問題は、先方が子どもを会わせたくないと言っている場合です。
相手の立場に立ちましょうか。毎日のようなパワハラ、モラハラに耐えかねて別居しました。子どもの目の前でも口を極めて罵られ、おとしめられる。現実に妻を「ビッチ」と呼ぶ夫がいました。こんな場合、相手としてはこのような夫には他人の人格を尊重することができないのではないかと思っても不思議ではありません。
そんな人と子どもを会わせて、子どもがそんな色に染まってしまったら、この子もそんなことをしてしまうのではないかという危惧を抱いたとしても、これまた不思議ではありません。そんな夫には絶対に合わせてはならないと思われても仕方がありません。
こんなときには、話し合いはまったく進まなくなります。
裁判所に行かずに話し合っても事か進展しない場合には、裁判所に行きましょう。調停を申し立てます。
それなりに平穏に進めば、たとえば、養育している方の親は月1回程度の面会を許すことになるというように解決することが多いようです。いつ、どこで、何時間ぐらいというのはその後に話し合って決めます。
ただ、かなり細かい条件を含む調停が成立する場合もあります。たとえば、面会の間に子どもの前で相手方をディスらないとかの条件です。
とりあえず調停が成立すればよいのですが、前に書いたように毎日のようなパワハラ・モラハラがあったような場合、母親も強硬です。どうしても調停が成立しない場合には審判という手続きに移ります。
調停は話し合い、合意が成立すれば調停成立。審判は話し合いではなく、裁判官が法律に基づいて定めます。法律にはあまり細かなことは書かれていないので、理論、すなわち法律上の理屈にもとづいた先例がものを言うことになります。
経験のある弁護士は、審判に移行すればどんな結論になりそうか予測しながら、調停を進めます。まぁ、予測がはずれることもありますが。
パワハラ・モラハラがあった場合に、審判でどんな結論が出るか予測するのはなかなかむずかしいところです。
一時、裁判所はパワハラ・モラハラをした夫にも会わせるべきだという見解に立っていました。子どもの健全な成長のためにはその方がいいんだそうです。
え・・・と思われた方いらっしゃいますか。
妻に対するパワハラ・モラハラが子どもの目の前でなされた場合、それは子どもへの虐待にあたるという考え方はかなり一般的になっているはずです。
それが正しいのであれば、従来の裁判所の考え方は、子どもを虐待した親に無理にでも会わせることが子どもを健全に成長させることになるということです・・・あなた、納得できますか?
そんな目に遭った子どもは父親の顔を見たら、それだけで恐がることがあります。怖がって母親にしがみついて離れようとしない子どもを無理矢理引き剥がして、泣き叫び続けているのに父親に渡すのが子どもを健全に成長させることになる?
アメリカでの調査結果があって、両親が離婚して片方が引き取っても、もう片方とも会わせたほうが子どもが健全に成長したという論文があると言われたこともありました。確かにそんな論文はあるようですが、それは両親の間にそれなりの信頼関係がある場合であって、モラハラ・パワハラで別居したような場合にそのままあてはめるのはいかがなものかという論文もあります。
私の見るところ、今では少し取扱が違ってきているというように見えます。「それはあなたの意見ですよね。論破!」とか言われると、「意見ですよ。」と言うしかありません。もっとも、そう言って論破してくる方のご意見も、その方の意見に過ぎないように見えます。
それはともかくとして、私の意見としては、裁判所はパワハラ・モラハラで別居した場合に、無理矢理会わせる方向で調停を進めることは減っているようにみえます。
だとすれば、養育している親としては、子どもが嫌がっている場合には会わせないことを条件とするように強硬に主張すべきでしょう。
裁判所では面会交流は親のためではなく、子どものためのものとして捉えます。養育していない親とも会う機会を与えて、両親が別れても両親が共に子どもを愛しているということを実感させることが子どもの健全な成長のために必要だという考え方によるようです。これはそれなりに納得できるでしょう。このような考え方に基づいて、調停も審判も進んでゆきます。
そのような考え方によれば、すでに述べたパワハラ・モラハラの加害者には合わせない方がよいという考え方も成り立つでしょう。
会いたくてたまらないという親のお気持ちはわかります。でも、あなたがどれだけ会いたがっているかということは二の次と言ってよいでしょう。裁判所に行く前の段階でも、自分が子どものために何をしてあげられるかを考えた方が子どもに会える可能性は大きくなるのではないでしょうか。
急がば回れってわけですね。
裁判所へ申し立てた後の詳しい手続きについては、次回アップします。
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