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もう出て行くっきゃない!



 さんざん尽くしました。毎日のように午前様になっても我慢しました。赤ん坊が朝起きたら最初のミルクを飲ませてくれただけで、「オレはイクメンだから。」なんてほざいてる。それだけならともかく、私の友達の前で、「お前はなんにもしないもんなぁ・・・」とか言ってる。引きつった作り笑いでその場をごまかすのも、もう限界!

 育児はミルク飲ませるだけじゃない。そのミルクを作ってるのは私じゃないか!誰がおむつ替えてんだ!おむつ替えようとしたら、「くさい。くさい。」とか言って別の部屋に行ってしまうのがイクメンなの!こっちはうんちが手につくのも気にせずにおむつ替えてんのに!

 誰がお風呂に入れたり、保育園に連れていったりしてんのか考えたことあんの・・・?赤ん坊の服は誰が洗濯してるのかわかってんの?

 生活費は散々お願いしてしぶしぶ渡してくる。なのに、全然足りやしない。独身時代に貯めていたお金は生活費に消えて、あと少しですっからかん。

 もう、出て行くっきゃない!


 さぁて、出て行ったら弁護士に生活費を請求してもらおっと。働いてるし、あいつから生活費もらえば、親子2人なんとか生きていけるかな。生活費出るまで少し時間がかかるっていうけど、それまではわずかだけど貯金があるから、なんとかなるかな。

 でもって、弁護士に頼んで離婚するんだ。出て行ってやる!


 ところが、友達に相談すると「気持ちはよくわかるけど、勝手に出て行ったんじゃ、離婚できないんじゃない?だんなを捨てるんでしょ。勝手に出て行ったんじゃ、あんたが不利になんじゃない?」とか言われてしまった。

 ネットで調べてみると、「悪意の遺棄」なんて言葉がある。悪意で遺棄されたら離婚を請求できるそうな。でも、うちの場合は私が捨てるんだし・・・もっと調べてみると「有責配偶者」なんて言葉も見つけた。夫婦としての関係を壊した方は、有責配偶者ということで、離婚請求できないそうな。もしかして、勝手に出て行ったら、離婚できなくなるのかな?こりゃ、えらいこと!


 北村弁護士じゃなかった。木村弁護士、どうしたらいいんでしょうか。


 お困りのようですね。でも、あまり心配することはないでしょう。

 私が妻側の代理人になったケースはほとんどが勝手に出てきたケースです。だからと言って、夫から「オレは捨てられた。悪意の遺棄だから、あいつからの離婚請求なんて認められるわけがない。」とか主張されたことは記憶にありません。法律家としては、離婚請求に対抗するためにこんな主張も考えられると思うのですが、出てきません。妻から捨てられたなんて主張は恥ずかしくてできないと感じるんでしょうか。


 悪意の遺棄の「遺棄」とはものの本では「同居・協力義務を履行しないこと」とか書かれています(内田貴・「民法Ⅳ親族・相続」p116)。民法752条は「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」とか書いてあります。同居しないこと、協力しないことが「遺棄」になります。


 では「悪意」とは?民法には「善意・悪意」なんて言葉があっちゃこっちゃに出てきます。大学生の頃、後輩から「よい意思とか、悪い意思とか、どうやって決めるんですか。」と質問されたことがあります。ごもっとも。なにが善くて、なにが悪いのかなんて簡単に決まりません。

 ただ、民法で言う「善意」、「悪意」というのは、ほとんどの場合、なにかを知っているか、知らないかという問題です。

 たとえば、地面師が代理人でもないのに土地を持っている人の代理人だと嘘を言って、まことしやかな委任状まで出してきました。土地を安く売ってやるというのです。でも、買主がその地面師が代理人ではないことに気づいていれば「悪意」、知らなければ「善意」ということになります。代理人でないことを知らず、しかも知らなかったことに過失がないと、土地が自分のものになるという制度があります。

 とはいえ、代理人でないこと気づいていれば、普通は買わないでしょう。ですから、売主本人は、買主はよく注意しないでその地面師が代理人だと信じたはずだとか主張して、それが争われることになります。「過失」があるってことですね。


 脱線しますが、知っている司法書士が地面師じゃないけど、詐欺をみつけたことがあると言っていました。決済の現場で、権利証だの印鑑証明書だの書類は完璧に揃っているが、なにか違和感がある。どうして違和感があるのかもわからない。でも、長年の経験で培われた勘です。買主がお金を支払う直前になって、その司法書士はとっさの判断で、印鑑証明書を自分の目の前に掲げて、売主の男に「誕生日は何月何日でしょうか。」と尋ねたということです。

 印鑑証明書には生年月日が書いてあります。その面をこちらに向け、自分の目の前に掲げて、売主らしき男から生年月日の記載が見えないようにして、尋ねたわけです。

 その男性はそのままフリーズして黙り込んでしまいました。もう1度、「お誕生日は何月何日でしょうか。」と尋ねても、答えようとしない。もう1度尋ねると、印鑑証明書に記載された生年月日とは違う日を言ったということです。やぶれかぶれだったんでしょうか。司法書士は買主に印鑑証明書を見せて、「登記はできません。」と告げ、買主は支払いをやめたということでした。

 後でわかったことですが、妻が夫に内緒で土地を売却し、彼氏と手に手を取って行方をくらまそうとして、彼氏を夫の替え玉として決済に行かせたということでした。一瞬、「奥様、やるじゃん。」とか思っちゃいましたけど、感心してはいけませんね。

 先に書いた地面師の例だと代理人として契約をした人に代理権がなかった例なので、これとは異なる事件です。


 話をもとに戻せば、民法では「悪意」とはなにかを知っていることでした。でも、「悪意の遺棄」とは、単に知っているということではなく、「倫理的な意味を持つ」とされています(同書p117)。夫が出て行っただけではどうかなというところですが、別居して生活費も渡さないので「悪意の遺棄」だとされた例があります。


 さて、夫からの虐待に我慢できずに別居した妻がいたとします。程度の問題はあるでしょうが、ひどい目に長年あわされていたような場合には、別居しても「悪意」の遺棄ではないでしょうね。出て行くのは当然であり、倫理的に責められるものではないでしょう。


 最初の例ではどうでしょうか。悪意の遺棄ではないというのはちょいと微妙かと思います。ただ、すでに書きましたように、夫の側からオレは悪意で遺棄されたという主張はあまり出ないようです。調停なんかでは、それよりも婚姻関係は壊れていないとの主張をして、それが激しく争われます。私なんかの感覚だと、妻が経済的な苦しさも予想し、先行きの不安も抱えながらそれでも家を出たのなら、婚姻関係は壊れているはずだと思いますが、あなたはどうお考えになりますか?




 


 

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